WWW川流れ

名は体を表す

「インターネットのホームページで見た」-Webサイトを公開している者にとって、これほど恐ろしい文句はない。肝心な「どのホームページで見たか」という事項が入っていないからだ。

筆者は「昨日アクセスしたWebサイトの名前」を人に会うごとに質問している。もっとも多い回答は「覚えていない」ではない。ただ漠然と「インターネットでなにかを見た」と答えるだけで、そもそも閲覧したWebサイトの名前を「知らない」というものだ。

  1. タイトルの役割
  2. 「勘違いタイトル」の傾向
  3. 「こだわり」は危険だ
  4. 川柳のセンス

タイトルの役割

他人に見られることを考えないWWWコンテンツなら、タイトルは「どうでもよい」問題だ。タイトルのない「名無しサイト」や「名無しコンテンツ」でも一向に構わない。書いている筆者が申し上げるのもなんだが、この文章を読んでも時間の無駄である。

しかし、「他人に見てもらいたい」という期待を少しでもするのなら、タイトルは内容と同じぐらい重要になってくる。Webサイトの名称から公開する個々のコンテンツ、さらにはコンテンツの中の見出しまで、タイトルを付ける作業はどこまでも続く。タイトルの選定は簡単なようでいて意外に難しく、WWWコンテンツに独特の性格もある。

さて、タイトルには大きく分けてふたつの役割があると考えられる。

  1. 内容を表すこと
  2. 覚えてもらうこと

偉そうな前口上の割に言うことはずいぶん単純ではないか、と叱られそうだ。

内容を表すこと

そもそもタイトルが存在する理由は、コンテンツをまだ見ていない者に対してどのような内容が含まれているのかを知らせることだ。タイトルを見ただけで、そのコンテンツがなにを対象にしているのか分かるようになっている必要がある。

例えば、検索を行ったときの結果画面には、さまざまなページの「タイトル」が表示される。内容もごく一部が表示されるが、目立つのはフォントもやや大きく、かつリンクが設定されたタイトルの方だ。ここで、検索しようとしていたキーワードと関係の深い語がタイトルに含まれていれば、リンクをクリックしてもらいやすい。

検索を経由しない訪問者にとってもタイトルは重要だ。メニューとして表示される項目の役割はタイトルとまったく同じである。項目のタイトルが悪ければリンクをクリックしてもらいにくい。ニーズにマッチした内容が含まれていても、見てもらえないのではどうしようもない。

覚えてもらうこと

「内容が分かる」という要件のほか、「覚えやすい」という要件も同時に満たす必要がある。内容のすべてを伝えていたとしても、長ったらしいタイトルでは覚えてもらえない。短くて覚えやすいタイトルを選ぶ必要がある。

ではなぜ覚えてもらう必要があるのか?

検索時のキーワード

タイトルは確実な再訪問につながる検索時のキーワードであるというのが、最初の理由だ。とりわけサイト全体のタイトルにはこの傾向が強い。

つまりこういうことだ。勤め先や学校で気になるWebサイトを発見したとする。「お気に入り」を持ち帰る方は少ないであろうし、URIを紙に控えるような方はもっと少ない。ここでタイトルが大きな意味を持ってくる。

自宅に帰ってから改めて訪問するときには、検索を利用する可能性が高い。このとき、探している情報に関するキーワードで検索されてしまったら、せっかく一度は捕まえた訪問者がほかのWebサイトに流れてしまう。「内容に揺るぎない自信のある」サイトなら訪問者は血眼になって検索を繰り返すだろうから、いずれ戻ってこよう。しかし、そのようなケースは希だ。

もしここで訪問者がWebサイトのタイトルを覚えていて、サイトの名前で検索をかけてきたら、再び訪問してもらえる可能性は格段に高まる。サイトのタイトルが検索時のキーワードであれば、検索結果の上の方に表示されやすいからだ。

ところで、タイトルにより検索されるということは、訪問者が別の場所から再び閲覧する場合のほかにも、極めて重要な役目を果たす場面がある。「口コミ」でサイトを紹介してもらう場合だ。

口頭でURIを伝えるのは難しい。URIは「話しことば」で伝えるには長すぎるうえ、独自ドメインを利用しているケースをのぞけば、ひどく無機質で匿名的だ。しばしば含まれる「~」(チルダ)の入力は初心者にとって難しく、全角と半角、大文字と小文字、スペルミスなど中級者でも間違いを発生させる要因だらけだ。このようなURIに比べると、タイトルははるかに確実な紹介方法であるばかりでなく、工夫を凝らすことで生き生きと情報を伝える生命を吹き込むことができる。

「お気に入り」がどっさり

WWWをある程度使いこなしてくると、ブラウザの「お気に入り」が増えてくる。コンピュータを買ったばかりならまだしも、たいていのユーザのお気に入りは画面に収まりきらない数になっている。

ここで弱った問題が生じる。サイトを見つけてもらい、内容も気に入ってもらえた。そして「お気に入り」にも追加された。「あなたの制作したコンテンツが優秀」であることを証明する事実がひとつ積み重ねられた。

しかし、画面からあふれるほどのお気に入りがある中で、再びあなたのサイトを開いてもらうのは難しい。「タイトルを忘れられて」しまっていたら、もはや絶望だ。ここでもタイトルを覚えてもらうことが意味を持つ。そしてそのタイトルは、数多ある訪問者のお気に入りの中で、いつも目立つよう工夫しておく必要がある。

「勘違いタイトル」の傾向

タイトルの選定は奥が深い。適切なタイトルを決める材料を得るため、まずは「勘違いタイトル」について考えてみたい。

もっとも「お馬鹿な」印象を与えるのは、ブラウザのタイトルバーや「お気に入り」に表示される「表紙」や「トップページ」の文字である。「手書きHTMLのススメ」のように作成していればこうした過ちは犯しにくいが、オーサリング・ツール(ホームページ作成ソフト)の中には、特に設定しないとこうなってしまうものがある。これではどこのWebサイトの「表紙」や「トップページ」なのか分からない。

もう少し「まとも」な場合にありがちなのは「ともこのホームページ」のようなタイトルだ。「ともこさん」がどんなコンテンツを公開しているのかは、このタイトルではひとことも触れられていない。そして、山口智子さんのオフィシャルサイトならいざ知らず、件の「ともこさん」がどこの誰なのかは、仲間内にしか分からない。「芸能人でもないお前なんか知らないよ」というのが一般の閲覧者だ。

このようなタイトルは個人サイトに限らず広く見受けられる。「株式会社山田」も「ともこのホームページ」とさして変わりのないタイトルであろう。法人形態が株式会社であるらしい、ということはわかる。しかし、「株式会社山田」の業務内容はまったく分からない。名前の通った企業でなければ、このようなタイトルの付け方は危うい。

法人の名称をそう簡単に変更するわけにはゆかないから、「株式会社山田」のWebサイトのタイトルは「株式会社山田」にせざるを得ないことが多いだろう。しかし、何らかの形で業務内容を伝える方法を考えなければならない。この視点に気が付いているかいないかで、WWWコンテンツの公開方法はまったく違ってくる。

ところで、「ともこのホームページ」というキーワードをGoogleで検索すると493のページがヒットする。また、「株式会社山田」の方は実に128,000ページがヒットする(2003年11月3日)。これらの「勘違いタイトル」には、内容が分からないという問題点のほか、ありきたりで他のWebページと区別が付かない、という問題もある。覚えやすいタイトルだとしても、これでは意味がない。

「こだわり」は危険だ

内容が伝わらないタイトルや覚えにくいタイトルはまずい。他でもよく使われているありきたりなタイトルもまずい。しかし、マニアックなコンテンツを作成するタイプの制作者は(自戒を込めての話だが)、少し違う種類の間違いをしばしば犯しがちだ。それは「ユニークすぎるタイトル」だ。

ユニークすぎるタイトルのコンテンツは、タイトルを見ても内容は分からず、内容を見てはじめてタイトルが分かる。このようなタイトルにはたいてい、並々ならぬ「こだわり」がある。内容を閲覧すると、どれも「悪くはない」コンテンツなのだが、これではタイトルを見ただけでコンテンツを閲覧せずに引き返してしまう訪問者が大勢出てくる。

専門的には「正しい」が一般的ではない表記も、タイトルとして安易に選択すべきではない。「ホームページ」と「Webサイト」「Webページ」の関係がもっとも分かりやすい例えだ。「ホームページ」なら誰でも分かるが「Webサイト」「Webページ」の認知度は低い。

また、「表記ゆれ」という問題が存在することは、是非とも知っておくべきだ。「ベトナム」「ヴェトナム」、「シェイクスピア」「シェークスピア」、「アタチュルク」「アタテュルク」など、外国の地名、人名を中心にいくらでも思い当たるだろう。

純粋な日本語の場合には、このようなケースは少なくなるが、注意すべきポイントは多い。その筆頭は「略語」である。「関空」と「関西国際空港」、「首都高」と「首都高速道路」などだ。さらに、特定の地域でしか通じない表現や特定のコミュニティでしか通じない表現も、選択にあたって配慮が求められる。

しかし、こうした「こだわり」タイトルはどのような訪問者をターゲットとするかにより選択の指針が変わってくる。必ずしも簡単ならばよいというわけではない。「ホームページ」は初心者に優しく多くの訪問者を引き寄せるかもしれないが、少し専門的な知識のある者には、かえって情報の信頼性が低いという印象を与えてしまう。

加えて、ある程度コンテンツに関わる分野に知識のある訪問者は、しばしば「よい訪問者」でもある。真っ当な商用サイトで商品やサービスを購入してくれるのは、この手の訪問者であることが多い。分かりやすくて簡単な、そして集客力のあるタイトルが、どんな目的でも効果的であるとは限らない。

川柳のセンス

「お気に入り」の中から探してもらう場合をのぞくと、タイトルは検索エンジンと密接な関係を持ちながら機能する。それゆえ、検索結果画面での「見た目」がどうなるかをよくよく考えて決める必要がある。「検索写り」の悪いタイトルは損をする。

例えば、Googleの日本語検索の結果画面で表示されるタイトルは、全角の日本語フォントなら20文字までである。20文字を超えた部分は切られてしまい表示されない。「短くて覚えやすい」ことには、一定の「数値目標」が設けられている。それゆえ、タイトルは20文字以内が理想的だ。20文字以内が不可能ならば、少なくとも最初の20文字だけで、表示されていない残りの部分を想像できるようにしておきたい。

考え方の一例として、弊サイトで提供している「とるこのととと」を挙げる。このコンテンツには「トルコの旅と食事と温泉と」という副題が付けられている。タイトルと副題をつなげ両者の間を全角スペースで区切ると、「とるこのととと トルコの旅と食事と温泉と」になる。これでちょうど20文字だ。内容は今ひとつ分かりにくいが短くて覚えやすい本タイトル「とるこのととと」と、やや長めでありきたりだが具体的な内容が分かる副題「トルコの旅と食事と温泉と」を組み合わせ、両者が補い合うことを意図している。

自画自賛ながら、これはよいタイトルだと思う。現在はお気に入りの中で整理しやすいよう副題を先に記載し「トルコの旅と食事と温泉 ととるこのととと」としている。

もっとも、ここまでうまい組み合わせができる可能性は低い。しかし、短いフレーズの中でさまざまな情報を伝える、あるいは想像させるというタイトルの意味は理解いただけたと思う。こうした短いフレーズを思いつけるようにするためには、川柳や俳句に馴染んでおくことが大変役に立つ。

ところで川柳や俳句には、もうひとつ大切な要素が含まれている。それは「語呂の良さ」という要素だ。「古くさい」印象を抱かれるかもしれないが、五七調や七五調は依然としてセンテンスのまとまりがよく、飽きがこない。「とるこのととと」でもっともユニークな、そして優先的に見せたい内容は温泉であるが、だからといって副題を変えてしまうと、「語呂の良さ」が損なわれてしまう。つまり「トルコの温泉と旅と食事と」にした場合だ。すんなりと読める副題ではなくなってしまったのが、よく分かると思う。

タイトルの世界は奥深い。そして、タイトルを付けるセンスを磨く「タイトル道」もまた奥が深く、本を1冊読んだぐらいで身に付くものではない。「名タイトル」を思いつけるよう、各自精進していただきたい(咳払い)。

2003.11.7