ガイドブック千夜一夜

ガイドブック千夜一夜その2

今回の「たたき台」を取り出してみる。

ずいぶん古いものを引っ張り出してきたことに驚かれる方もあろうが、この時代のタイトルにはLP社の出版物の特徴がよく現れていると考えられるからだ。検討対照の選択にはもう少し考慮が必要な部分もあるので、今後の展開にあわせて追加するかもしれない。

まず、本の体裁は至って簡素だ。616ページのペーパーバックであり、イラストの入った表紙以外の本文はモノクロ。写真らしい写真-もちろんモノクロである-は1点しか使われていない。ただ1点の写真は著者Tony Wheeler氏の近影である。本文には日本的なセンスから見るといささか「謎めいた」カットがところどころに挿入されていて、これらの中には写真から起こされたと思われるものもある。しかし全体としてはただひたすらテキストが続く構成だ。

このタイトルははじめて出会ったLP社の出版物でもある。1987年、イランへの入国を控えたパキスタンのクエッタでドイツ人ツーリストからひと晩貸してもらい、大変な衝撃を受けた。当時目にしたこれよりもひとつ前の版にはその後再会できずにいるが、情報量が拡充された以外基本的な制作方針は変わっていない印象だ。

本来なら表紙だけでもスキャンしてご紹介したいところだが、知的所有権の問題もあり思うにまかせない。しかし、大雑把なイメージとしては「見た目が非常に悪い」ということだ。このような体裁では日本の書店で店頭に並んでいたとしてもアピールするところは弱い。営業的に成功を収めることは難しいであろう。

さて、このタイトルでカバーしている範囲は最東端がインド、最西端がトルコである。裏表紙に記載されたコピーを抜き出してみる。

たった3行ではあるがポイントは明確だ。まず、対象がパッケージツアーではなく個人旅行者であることが明示されている。この部分は当時の日本とはずいぶん事情が異なっていた。そして命じているわけではないものの、読者が「カトマンドゥからイスタンブルまでを陸路で横断する」ことを念頭に置いている。旅行のルートもある程度絞られているわけだ。「92点の詳細な地図」の内容について今回は触れないが、地図の充実度は重要な指標であった。

裏表紙には上記の主要なコピーと隣り合って、収録地域全体を示した簡単な地図に吹き出しを付ける形で地域ごとのコピーも付けられている。

これらの謎めいたフレーズにはページ番号が添えられ、本文に誘導されるようになっている。誘導された本文を読むとニヤリとしてしまうものが多い。具体的なコピーとこのような「遊び心」のあるコピーが隣り合わされているところは心憎い。そして実際に歩いてみないとなかなか思い当たらないフレーズでもある。

2003.6.2