ガイドブック千夜一夜

ガイドブック千夜一夜その4

今回もしつこく古いタイトルを引っ張り出してみる。

タイ王国を対象とした本書は、国や地域ごとにまとめられたタイトルの中でも非常に完成度の高い1冊であると考えている。そして同時にLP社の出版物らしさも典型的に残っているのが特徴だ。

回を改めて論じる予定だが、改版のサイクルが比較的長いということはLP社のガイドブックの特徴であった。前回取りあげたTibet-A Travel Survival Kitの第4版が発行されたのは1999年であり、訪問者の限られる地域とはいえ初版から実に13年を要している。

しかしこのThailand-A Travel Survival Kitは人気のある目的地だけに、1982年の初版からわずか8年で第4版に達している。最近でこそ改版のペースは早まりつつあるが、1980年代~90年代にかけてのタイトルとしては頻繁な部類に入る。

さて、相変わらず本文はモノクロである。カラー写真を掲載するためのページは16ページ用意されており、このページ数はTibet-A Travel Survival Kitと同様である。本文256ページのTibet-A Travel Survival Kitに対し、本書は444ページの本文で構成されていることを考えると、写真の使用点数は控えめだ。

比較の対象として同時期(1990年)に発行されたEgypt & the Sudan-A Travel Survival Kitでは本文448ページのうち24ページにカラー写真を掲載している。スーダンはともかくエジプトは比較的人気のある目的地であり、Thailand-A Travel Survival Kitと性格の似たタイトルと言えよう。

写真用に割くページ数は最近のタイトルでも大幅に変わっていない。例えば2000年発行のLonely Planet Hungaryではテキスト416ページに対し16ページ、2001年発行のCzech & Slovak Republicsではテキスト560ページに対し16ページという比率になっている。発行年もやや早く対象地も特殊だったTibet-A Travel Survival Kitがいかに異色のタイトルであったかが分かってくる*1

LP社のガイドブックの特色はなんといってもその実用性にある。実用性を求める場合、写真の点数は重要ではないということがこうした数字に示されていると言えそうだ。

本文テキストページには90点の地図が収録されている。依然として手書きで起こされているとみられるものが多く、後年実現される目標物の種類ごとのマーク統一も行われていない。しかし地図自体は概して内容を認識しやすく、以前のタイトルに比べれば確実に洗練度は向上している。

チベット語や中国語と同様、タイ語もまたアルファベットは独自のものである。Tibet-A Travel Survival Kitではテキスト中の地名表記を原則ラテンアルファベットに置き換えていたが*2、本書では見出しごとにタイ語を併記している(手書きではなくフォントを使用)。このようにタイ語を併記していることは、交通機関を利用して移動する際にも当該ページを見せるだけで切符の購入などができ、大きな威力を発揮する。

デザインの変更はその後も行われてきたが、基本的な体裁はThailand-A Travel Survival Kitの発行された1990年ごろまでに固まったと考えられる。今に至るまで引き継がれている裏表紙内側のスケールと度量衡換算表もすでに本書で登場していた*3。体裁全般としては決して豪華ではないが、必要十分な水準に達している完成されたスタイルが確立されたと言えよう。

ところで本書が発行された時期、シリーズ各タイトルのカバー・デザインが従来のLP社のシリーズから若干変更された。表紙の上部にLonely Planetの記載が入り、LP社の出版物であることがよりアピールされている*4。実は本書が発行された1990年前後から、copyright表示の変更が静かに進行している。それぞれの著者からLP社への変更だ。

著者名は引き続き記載されたので変更の行われた時期は確認しづらいが、Turkey-A Travel Survival Kitなどは1996年発行の版までTom Brosnahan氏がテキストのcopyrightを維持し続けた。


2003.6.12