WWW川流れ

文章構成

本論においてはコンテンツの「論理構成」について、ずいぶんとしつこく記述している。今回取りあげる「文章構成」という分野は、論理構成とも密接な関わりをもち、重複する部分も多い。

しかし、アプローチの方向は異なっている。論理構成が「内から外」に向かうものであるとすれば、文章構成は「外から内」に向かうものだ。「何を言いたいのか」を出発点にする場合と、「何が言えるのか」を出発点にする場合の違いとも言える。

  1. 文章の構成単位
  2. 長さの最適値
  3. コンテンツとしてのまとまり
  4. WWWの限界

文章の構成単位

「文面も隙間もデザイン」のセクションでは、新聞記事の例を挙げ、200字程度までの長さが読みやすい段落のスタンダードであるとした。200字程度という数字を、文章構成の最小単位として考えてみたい。

まとまりがよい文章の構成として古くから言われ続けているのは、「起承転結」の組み立て方だ。起承転結のひとつずつに段落を割り振って文章を構成すると、「200字×4=800字」という数字になる。読み切りの文章としては、200字の段落の上に、800字という「まとまり」を設定できよう。いろいろ文章を作成して試していただきたいが、一息に読み切れる長さとして、800字の文章は収まりがよい。

さて、小学校で普通に使われる原稿用紙は200字ずつを左右に並べた400字詰めだ。そして、大学のレポートや諸々の原稿を提出する用途に使われる原稿用紙は、200字詰めの「ペラ」であることが多い。200字を基本とする構成は多くの日本人にとって慣れ親しんだ「サイズ」と言えよう。閲覧者の側に立った「読みやすさ」の側面からだけではなく、制作者の側の「執筆しやすさ」という側面からも、200字を基本に文章を組み立てる考えは、合理性がある。

ここでも再び、文章に対する考え方は一朝一夕に変化しないという結論が得られる。これまでのセクションで説明してきた「見せ方のテクニック」としてのデザインには、WWWコンテンツに特有の要素がいくつかある。しかし、基本的な文章構成の考え方は、WWWという新しいメディアだからといって新奇性を求める必要はなく、古典的な考え方の下に進めるのが無難であると言えよう。

長さの最適値

「読みにくい」ということが大きな障害であるWWWコンテンツにおいて、文章が短い場合には目立った問題が生じる可能性は少ない。ぎりぎりまで短くされた文章は、ある意味「理想的」だ。文章構成の基本となる単位について前のセクションで目安を設定したが、次の問題は、構成単位をいくつ連ねるかという問題である。

弊サイトで提供している「とるこのととと」では、1回の訪問あたり4ページ前後が閲覧されている(ただし、旅行シーズンには5割程度増える)。検索キーワードとコンテンツがマッチせず、1ページのみの閲覧で帰ってしまった訪問者をのぞいて算出し直すと、この数字は1.5~2倍と見積もられる。コンテンツを実際に活用する閲覧者が1回の訪問で閲覧してゆくページ数は、6~8ページになる。1ページの字数には相当ばらつきがあるが、平均としては3000~4000字である。

ときに、NHKのアナウンサーが原稿を読み上げるスピードは、1分間に400字弱という数字だ。読み上げられるニュースを聞く場合と、自ら読み上げる場合を比較するのは適切ではない面もあるが、内容に注意を払いながら文章を読むスピードの目安として、「毎分400字」という数字を一応の基準としたい。

さて、小中学校の授業はひとコマ40~45分である。閲覧者が無理なく集中できる時間の長さとして、この数字を基準にしてみる。毎分400字のスピードで文章を読んだとすると、45分間では1万8千字だ。この数字は「とるこのととと」の平均閲覧ページ数にページあたりの平均字数をかけて得られる「閲覧字数」と近似している。文章ひとまとまりの長さとして、2万字以内という数字を設定すれば、1度の訪問で読み切り、論理構成を理解してくれる訪問者を増やせるのではなかろうか。

コンテンツとしてのまとまり

実は、「とるこのととと」においてコンテンツを活用してくれていそうな訪問者の滞在時間というデータも、前記の40~50分という数値に近似しているとみられる。サイトにアクセスし最初にファイルを読み込んだ時刻から、最後のファイルを読み込んだ時刻のスパンが、30分前後なのである。最後のファイルを読み込んだ時刻からしばらくは閲覧を続けているだろうから、数値は接近していると推測される。

ひとつのコンテンツを作成するにあたっては、この時間内で読み切ることのできる2万字程度までを目安に構成するというのが、とりあえずの「字数制限」と言えるかもしれない。200字を4つ連ねた800字を単位とするならば、これをさらに4つ連ねて1章を構成し、さらに4つの章を設けて12800字程度で全体を構成するというのが、モデルとしてはきれいな構成だ。

数回にわたる訪問で閲覧させるという前提ならば、このようなまとまりを連結してコンテンツを組み立てる方法で差し支えないだろう。ただ、区切りがある程度分かりやすくなっていて、閲覧者が再度訪問したときにも迷いにくいデザインがなされているというのが条件になる。

WWWの限界

とは言うものの、WWWブラウザで無理なく読める文章の量には、やはり限界がある。閲覧者の疲労感だけでなく、閲覧が細切れになってしまうことや、一度にページをめくることができないという弱点は、「読みこぼし」を増やすことになる。

とるこのととと」ではテキストが10万字を超えたあたりから、問題が多発し始めた。すでに記述している事項に対する質問や、記述してあるにもかかわらず見落とされていたことに起因する苦情が増えた。印刷用には別のファイルを用意することにした事情のひとつである。

コンテンツを見通させるナビゲーションも無制限に長くするわけにはゆかない。2万字前後のまとまりを4つ連ねた8万字程度が、ひとつのコンテンツに収録できる限界と考えている。

本稿の基本的な考え方は、コンテンツによってデザインが決まってくるというものだ。しかし、ボリュームについてはこれまで述べたような制限を課せられ、コンテンツにも影響を与える場面がある。「コンテンツとデザインが切り離せない」という構造は、両者の相互的な関係により成り立っていると言えそうだ。

2003.11.12