WWW川流れ

さよならアクセスカウンタ

  1. 数字の魔力
  2. アクセスカウンタ数え歌
  3. 「はったり」の技法
  4. さよならアクセスカウンタ

アクセスカウンタは多くのWebサイトを飾るアイテムのひとつだ。移ろいやすいWWWメディアの機能としては極めて長寿命であり、弊サイトでも2003年7月まで私営あなとりあ通信のページに表示させていた。しかし、アクセスカウンタの示す数字は、その長寿命とは裏腹に曖昧で不統一である。

数字の魔力

Webコンテンツを公開するにあたり、訪問者の「少なさ」を期待する制作者はまずいない。劇的な集客ができるコンテンツは用意できていないと自覚しつつも、「うっかり大当たりする」可能性を期待しているはずだ。このサイトの制作者がそうであったのだから、まず間違いなかろう。ひとたびWWWにコンテンツを公開してからは、カウンタの示す数字に一喜一憂させられる。

カウンタに期待される役割は、「数字」を表示してそのサイトの善し悪しを「客観的」に宣伝する、ということになろうか。コンテンツが整っていなくても、数字が大きければ訪問者に対して「はったり」をかますことができる

しかし、「数字を見せびらかす」というのは奇妙な行動形態だ。大風呂敷を好む中華思想をエスニシティにする人々やヤンキーならまだしも、おおよそ日本人のメンタリティからはかけ離れている。にもかかわらず多数のWebサイトで表示され続けるアクセスカウンタには、日本人の思考様式に生じている大きな変化が窺えると言えないだろうか?

これは「カウンタの文化人類学」というタイトルで本が書けそうな現象だ。あまり売れそうにないが、なかなかいいタイトルだろ?しかし残念ながら本案に着手するのはしばらく先になる見込みだ。今回はタイトルにだけ「ツバ」を付けておく(笑)。

さて、従来のメディアを見てみよう。例えば書籍だ。ごく一部のベストセラーをのぞけば、部数をいちいち宣伝することはない。昨今は部数を明かしたくない「辛い事情」のあるケースも少なくなかろう。

一方、テレビは「視聴率」という数字を競っている。数字を出したがるという点にはアクセスカウンタと重なる部分もあるが、あくまでも視聴「率」だ。「視聴者の数」であるとはひとことも謳っていない。「視聴者の数」が昨今どうなっているのかは、しばしば本論で参照する第17回CSJ利用者調査結果(および過去のデータ)にヒントがある。こちらも厳しい現状におかれていると察せられる。

これまでのメディアではアクセスカウンタに相当する機能はなかった。WWWに関しても必要不可欠な機能ではなく、アクセスカウンタがあってもなくてもコンテンツを閲覧できることに変わりはない。「無ければ無いで済む」はずの機能だ。

それにも関わらず、アクセスカウンタはなおも多くのWebマスターを惹きつけてやまない。筆者が50の個人サイトについてアクセスカウンタの有無を調査したところでは、実に38のサイトに取り付けられていた*1数字を表示することには計り知れない魔力が潜んでいる

アクセスカウンタ数え歌

まず、カウンタの数字はいくらでも操作可能で、制作者が好きな数字を表示できる。だからサイトを移転しても数字は引き継ぐことができる。「それを言っちゃあお仕舞い」なのかもしれないが、そういうものだからしかたがない。「Webマスター性悪説」に基づけば、カウンタの数字はまったく信用ならないと結論付けられる。

上記のような運営者によるあからさまな操作が行われていないとしても、その数字の意味はさまざまだ。複数のサイトでカウンタが同じ数字を示しているからといって、それらのサイトの閲覧者数が同じというわけではない。いやむしろ、設定のされ方次第では一桁以上違う数字を叩き出す。

アクセスカウンタの傾向と対策

カウンタが表示する数字を増やす設定-カウントアップ方法の設定-は、大きく分けてふたつある。ページを読み込むたびにカウントアップさせる「ページビュー方式」と、同じホスト(≒同じ訪問者)なら一定の期間(通常は1日)カウントアップさせない「ユニーク・ユーザ方式」だ。

当然ながら、前者の設定をした方がカウンタに表示される数字は増える。一方、後者の設定で数字を増やすことは容易ではない。

さらに、それぞれの方式について、サイト内の複数のページにスクリプトを呼び出す記述をする方式と、カウンタの表示されるひとつのページにだけスクリプトを呼び出す記述をする方式がある。前者が後者より高速にカウントアップすることは述べるまでもない。

Webサイトに取り付けられたアクセスカウンタの数字を見るにあたっては、このような知識が是非とも必要である。カウンタの数字にはさまざまな意味があるとわかれば、希望する形態の情報を提供するサイトを効率よく見つけられるかもしれない。

超高速アクセスカウンタ

1:ユニーク・ユーザーa.1ページのみから呼び出し
b.複数ページから呼び出し
2:ページビューa.1ページのみから呼び出し
b.複数ページから呼び出し

上の表、「2-b」のように設置・設定されている場合には、さらなる「細工」が可能になる。カウンタ自体の設定のほか、サイト内のページ構成を工夫することでカウンタに表示される数字を大きく増やせるからだ。

つまり「2-b」の場合、カウントアップの要件は「ページを読み込ませること」だ。内容は長くても短くても構わない。ページを「細切れ」にして読み込み回数を増やせばよい。2000字の原稿を1枚のHTMLファイルに書き込んでいたらカウントアップするのは1回だけだが、同じ分量の原稿を10枚のHTMLファイルに切り分けておけば、10回カウントアップする。閲覧者が入手できる内容はまったく同じだ。弊サイトのように気を失いそうな字数を1ページに詰め込むと「損」をする。

Yahoo!掲示板をはじめ多くの商用掲示板が「1メッセージ1ページ」になっている理由もこれで理解できただろう。広告の露出回数を「メシのタネ」として考える限り、こうならざるを得ない。経営的にやむを得ないことだから、これを非難するつもりはない(もっとも、直接Yahoo!に真意を伺ったわけではないから、そこんとこよろしく)。

「はったり」の技法

「WWW川流れ」として連載している一連の文章では、技術的な部分よりもむしろ、WWWを利用して提供されるコンテンツに関心を払っている。だから、カウンタの設定方法についてあれこれ批評しようというつもりはない。どのような設定をしようとそれは運営者の判断であり、それに対する評価は閲覧者が行うものだ。

前節の表にある「2-b」のケース、すなわちやたら数字が増えるよう設定された「超高速アクセスカウンタ」の方が便利なこともある。例えば掲示板を中心としたサイトでなにか質問をしたい場合だ。カウントアップの速度が速ければ、回答者になりうる他の訪問者が頻繁にリンクを辿っていることになる(が、同じように質問したい訪問者ばかりの可能性もある)。

ところで、コンテンツに主な関心を向けると、カウンタの設定・設置方法などという小手先細工ではない「はったり」を思いつく。カウントアップの設定は控えめでも、数字を増やす方法はある。「コンテンツの設定方法によってカウンタの数字を操作する」というやり方だ。

数値を水増しするためには青魚コンテンツ」が最適だ。時事ニュースものを小出しにして連日訪問させる方法や、コミュニケーション型コンテンツに重点を置き閲覧者を囲い込む方法がもっとも効果的である。

つまり、常連客が毎日のようにアクセスカウンタを回してくれれば数値は増える。毎日1000人の常連客がやってくるとして、年間36万5000という数字になる。「ひとかどのWebサイト」であることを示すには十分な数字であろう。

ウサギとカメ

しかしこれは「トリック」だ。1000人の常連客はいつまでたっても1000人でしかない。カウンタの数字が10万になろうが100万になろうが、閲覧者は1000人しかいないことに変わりはないのだ。

一方、「タレ流し型コンテンツ」の利用者はもっぱら検索エンジンを経由した「一見の」閲覧者に限られる。常連客はいないから閲覧者は常時入れ替わってゆく。アクセスカウンタの数字は「実際に閲覧した人数」に接近している。

タレ流し型コンテンツ」を提供するWebサイトのカウンタは回らないが、閲覧者の実数は確実に伸びてゆく。1日10しかカウンタの数値が増えなくとも、わずか100日間で「ひとかどの青魚Webサイト」を上回る閲覧者を獲得し、その後は差が開く一方である。「ウサギとカメ」の寓話にそっくりだ。

さよならアクセスカウンタ

数え方が統一されたものではない以上、カウンタの数字は比較の材料としての意味をなさない。意味のない数字をいちいち表示してもサーバーの負荷とデータの転送量を増やすばかりで、なんの効用ももたらしてくれない。

そして、いずれの方法でカウントアップさせるにしても、多数の閲覧者に活用される「タレ流し型コンテンツ」を提供するWebサイトには極めて過酷な数字を投げつける傾向がある。有意なコンテンツを制作する者の精神をスポイルするという意味では、「WWWの環境汚染物質」と呼んでも過言ではない。

コンテンツ制作にあたって大いに参考になるアクセス解析は、数字を表示せずとも詳細なデータを収集できるCGIが多数出回っている。また、弊サイトで利用しているサーバーのように、サーバーサイドで採取されたより精度の高いログを提供してくれる業者もある。

結局のところ、アクセスカウンタは閲覧者にとっても制作者にとっても意味がないという考えに帰結した。加えて「とるこのととと」に掲示板を設置したことで、純粋なコンテンツの閲覧目的ではないアクセスによりカウンタが回転するようになった。以上が弊サイトでアクセスカウンタの設置を取りやめた理由である。

タレ流し型コンテンツ」を主に商うWebサイトでも、「老舗」の域に達しつつあるサイトのカウンタは、すでに最小限しかカウントアップしない設定になっているようだ。頻繁には動かない飾りのために、スクリプトを呼び出す記述を長々と書き込むのは馬鹿馬鹿しい。いっそ取っ払ってしまった方がすっきりする。


2003.10.31