WWW川流れ

手書きHTMLのススメ

  1. ブラウザは最強の校正ツールである
  2. 「上げ底ベストセラー」を暴く
  3. 論理構成の鏡
  4. 手書きHTMLという結論

ブラウザは最強の校正ツールである

コンピュータに接続されたモニタで文章を読むのは疲れる。加えて弊サイトの制作者は強度の乱視を抱えており、画面上での文章の閲覧にかなりの苦痛を伴う。凝った装飾を誇るWebサイトの制作者が電車に飛び込みかねない方法でWWWを閲覧していることを白状しておく。

日頃よくやる閲覧方法は、メニューの「表示」以下にある「文字のサイズ」で「最大」を選択したうえ画面から離れ、コーヒーを飲んだりタバコを吸ったりしながら偉そうに反っくり返って文面を追うというものだ。文章を読む目的なら、この姿勢がいちばん安楽である。文字サイズを変更できない場合にはブラウザをNetscape7に切り替えることが多い(が、読み続けるのをやめることはもっと多い)。このブラウザには文字サイズの固定は効かない。ユーザースタイルシートを利用して強制的に文字を大きくすることもある。

Microsoft® Internet Explorer でも「インターネットオプション」-「ユーザー補助」-「Webページで指定されたフォントサイズを使用しない」にチェックを入れるという方法で、固定された文字を大きくすることができます。が、この方法は元の設定に戻すのが面倒なので、Netscape7 を使っています。(2004.8.29追記)

いずれにしてもレイアウトはガタガタになり、ほとんどの装飾に対する努力は徒労に終わる。しかし不思議なことに、「タレ流し型コンテンツ」を主軸に構成される長寿サイトは装飾を取り払っても魅力が損なわれないものだ。

さて、こうして標準的な設定とは違う方法-装飾を無視する方法-でWWW上のテキストを追っていると、文章の巧拙が手に取るようによく分かる。ここでひとつのアイデアを「発見」した。

紙に印刷するつもりのテキストをまずはHTMLで作成し、WWWブラウザで読んでみるという作業が、分かりやすい文章を書く上で非常に役立つことだ。ブラウザ上で読みやすい文章ならば、おおよそ紙に印刷しても読みやすい文章であり、推敲の必要な箇所は格段に少なくなる(もっとも、誤字、脱字を訂正する校正の目的では紙に印刷してのチェックが効果的だ)。

モニタの画面に浮かんだブラウザ上に表示される文章は、読みやすさについて相当のハンディを負わされている。匿名掲示板の何気ない書き込みにも、ときに「すばぬけた名文」がある。WWWブラウザで閲覧されるという事情により損をしている「気の毒な名文たち」だ。

「上げ底ベストセラー」を暴く

逆に、紙の上で優れているとされる文章がWWWブラウザ上でも読みやすいというケースは限られている。スキャナとOCRソフトがあれば、手元にある書籍や論文を取り込んで試してみてほしい。うっかり蔵書に入れてしまった書籍の「デキの悪さ」に鬱々とした気分を味わうかもしれないが、永く読み継がれている名文はやはり名文だということも改めて認識させられる。

例えば、私が表現に迷ったときに開くのは「記者ハンドブック」と「文章読本」である。特に後者は是非手に取っていただきたい一冊だ。本書を開くとまず、前文の日付「昭和9年9月」に腰を抜かすことだろう。そして読み進んでみると、記述されている内容は今日でも参考になる要素ばかりであり、まったく古くささを感じさせないことに驚く。文章に対する考え方は一朝一夕には変化しないという事実がよく分かる。

さて、このコンテンツはWWWで提供しているから、それにふさわしい例を挟んでみる。装飾は良くできているが、ページは重く動作の緩慢なWebサイトのリンクを深い階層までクリックし、結局目当ての情報が見つからず腹を立てた経験は、一度ならず思い当たるだろう。

装飾の効用を否定するつもりはない。また、装飾自体がコンテンツになっているWebサイトもある。しかし、情報を集めるという目的でこのようなWebサイトに再び足を運ぶ可能性は低くなると考えられるだろう。Webコンテンツに関しては、分不相応な装飾は長い目で見ると損をするという結論が得られる。

「からくり」は同じだ。紙に印刷するということは単純な仕掛けのように見えて、実は「見映え」を良くする極めて有効な「装飾」のひとつなのだ。どれほど名が通っていてもHTML化してWWWブラウザ上に移したとたん読みにくくなる文章は、「可読性の高さ」という印刷媒体の特性に助けられてきた「上げ底ベストセラー」である。

「上げ底ベストセラー」は「積ん読」に回される可能性が高い。しかし出版物の場合、売れさえすればさしあたり当初の目的は達成される。課金されることを通じて短期的に成果を計測できる分、出版物は有利だ。

しかし、Webコンテンツの場合には、「タレ流し型コンテンツのススメ」の第1節で記した指標を満たすことが成功の確実性を高める。「『閲覧されたページ数÷投入資源』の最大化」という指標で点数を上げる要素をみすみす失うわけにはゆかない。Webコンテンツを作成するのならば、「上げ底ベストセラー」を反面教師として参照するのが良かろう。

論理構成の鏡

HTMLはもともと学術的な文章をやりとりする目的で開発された。適切な見出しを中心にマークアップしてゆくことは、階層的に整理された論理構成の論文や報告書にもっとも適している。WWWブラウザもまた、このようにマークアップがされた文章の表示を得意としている。WWWブラウザは論理構成の巧拙を映す鏡なのだ。

純粋に文学的な作品には、HTMLの枠に収めることが困難でWWWブラウザでの表現が不能な「名文」もあり得るかもしれない。しかしこれらは「論理構成を超越」しているのであり、凡人が迂闊にまねをすべきではないから、議論には馴染まない。そして、論理構成が練られていないからといって、日記や個人的なエッセイのコンテンツを駄文呼ばわりする気はない。

一方、論文や報告書の場合なら、論理構成はコンテンツの骨格である。WWWブラウザで読みにくい論文や報告書は「駄文」であるだけでなく論理構成が未熟な「駄案」であり、「読みにくい」という烙印を押された時点ですでに失格だ。推敲で持ち直すことは困難で、素案から練り直した方が早い。

論理構成の精緻さはブラウザ上での読みやすさを向上させるだけでなく、そもそも論文や報告書にとって必要不可欠な要素である。ならば最初から論理構成を念頭においたマークアップをしながら執筆を行えば、無駄なく高確率で成果の上がる文章を作成できるはずだ。今日もっとも手軽で汎用性の高いマークアップの方法はHTMLであろう。

手書きHTMLという結論

本論で提唱しようとしている文章を書くに当たっての手書きHTMLは、極めて容易に修得できるものだ。装飾は不要であり、単純に見出しを付け段落を設けるだけである。

オーサリング・ツール、いわゆる「ホームページ作成ソフト」に最初から手を出してはいけない。これらのツールからは論理構成が見えにくい。論理構成をふまえずにHTMLファイルを吐き出すオーサリング・ツールの利用は、老い先短い老人が「遺言コンテンツ」を作成するなら打ってつけだが、本論をここまで読んだ成果は得られなくなる。

それでは、さしあたり覚える必要のある項目を列挙する。見出しには「h1」から「h6」まで6段階が用意されていること、段落は「p」で表現すること、そしてこれらの要素はそれぞれ<h1>のように<>で囲った開始タグで始め、</h1>のようにスラッシュを入れた終了タグで閉じてやること。本文はこれだけだ。

このほか実際にHTMLファイルとして保存しブラウザで表示させながら作業を進めるために、ヘッダとbodyを追加する必要がある。しかし、これらはこのページのソースを開いて模倣するか、下に掲載しているサンプルを利用すれば当面の作業用には十分だ。執筆はTeraPadのようにごくシンプルなテキスト・エディタで行うことをお勧めする。鈍重なワープロ・ソフトに比べると動作は羽のように軽い。

ひとたびこの方法に馴染んでしまうと、ワープロ・ソフトは「簡易DTP」という役割に落ちぶれる。それどころか、昨今はHTML形式で完成させブラウザで閲覧させる形態とした方が「ウケ」がよろしいから、「お役ご免」となるかもしれない。

すでに使い込んだワープロ・ソフトとの互換性を心配する向きもあろうが、杞憂である。Wordや一太郎は数年前のバージョンからHTML文書を編集することができ、少なくともプレーンなHTMLであれば障害はほとんど生じない。

ヘッダとbodyを追加したサンプル

この先ファイルをいじりながら進めるセクションがいくつかある。数字やアルファベット、スペースはすべて半角なので、入力する際はカナ漢字変換(MS-IMEやATOK)をオフにされたし。

<!DOCTYPE HTML PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.01//EN">
<html lang="ja">
<head>
<meta http-equiv="content-type" content="text/html; charset=Shift_JIS">
<title>タイトルを書く</title>
</head>
<body>

<h1>見出し(h1は普通タイトルと同じでよい)</h1>

<p>拡張子をhtmlもしくはhtmにして保存されたし。</p>

</body>
</html>

2003.10.29

「取っつきにくい」印象を持たれがちな「手書きHTML」だが、活字好き、文章好きにとっては意外に「気持ちのよい」ものだ。論理構成を見ながら執筆できることに「安心感」を感じた方は少なくないのではなかろうか?「手書きHTML」に比べると論理構成の見えにくいオーサリング・ツールには、「裏で何をやっているのか分からない」気味の悪さがある。

前に「オーサリング・ツールの利用は、老い先短い老人が「遺言コンテンツ」を作成するなら打ってつけだが(以下略)」などと、ある意味「挑戦的」な記述をした。しかしながら、高齢の方でも文章を「読む」「書く」ということが好きならば、「手書きHTML」は馴染みやすいようだ。

本稿を公にしてからまだ日が浅いが、すでに何件かこうした意見を伺っている。オートマチック・トランスミッションの自動車を気味悪がり、マニュアル・トランスミッションの自動車にこだわる方がいるのと似ているかもしれない。

さて、この後の章では今回作成した「手書きHTMLファイル」をWWW上に公開するために加える必要最小限な加工について説明する。いずれもごく簡単なものであり、技術的な網羅性では専門書の足下にも及ばないが、「活字好き」や「文章好き」に役立つポイントに絞って紹介する。最初は「選択肢を絞って分かりやすく」がねらいである。

2003/11/7 追記